「本当に作りたい住まいは、10年たっても20年たっても古さを感じない住まい」
――前回の記事でそう書きました。

今回は、その続きとして「なぜ流行はすたれるのか」「時を超えて美しい家とは何か」について、建築士としての私の考えを少し深めてみたいと思います。


■ 流行のデザインは、便利だけど浅い

SNSや雑誌にあふれる「今っぽい家」。
素材や色使い、照明の配置も美しくまとまっています。
でも、数年たつと「あのテイスト、もう古いね」と言われてしまう。

理由は簡単で、「誰かが作った流行の型をそのまま借りている」からです。
便利で手っ取り早いけれど、そこに“あなたの暮らし”が反映されていない。
だから、時がたつと心が離れてしまうのです。


■ 永く愛される家には「余白」がある

私が設計するうえで大切にしているのは、
完璧に作り込みすぎないこと。

ほんの少し“余白”を残す。
暮らす人が、季節や年齢、気分に合わせて変えていける余地。
そこにこそ「住む楽しみ」が生まれます。

光の入り方、風の抜け方、床の素材、扉の音。
一見地味でも、五感で感じる部分を丁寧に設計していくと、
時間の経過が味わいになっていきます。


■ デザインとは「整える」こと

「飾る」ことではなく、「整える」こと。
この感覚を大切にしています。

たとえば和室に差し込む朝の光、
外の植栽が壁に落とす影、
窓の外に見える空の切り取り方。

人の暮らしと自然が静かに調和する“間(ま)”を整える。
そこにこそ、流行に左右されない美しさが宿ると思うのです。


■ 家は完成してからがスタート

家は、完成した瞬間がゴールではありません。
そこから家族が暮らし、手を加え、
時間とともに「完成していく」もの。

その経過こそが、本当のデザインの一部です。

だから私は、図面を描くとき、
“10年後、20年後の家の姿”を想像します。
無垢材が少し焼け、庭の木が影を落とし、
子どもが成長して家具の位置が変わる。
その変化が美しく見えるように――。


■ これから

建築は、技術でもあり芸術でもあります。
流行や効率を追うだけでは、
「心に残る家」はつくれない。

これからも、住まう人の人生に寄り添いながら、
“時を超えて美しい家”を設計していきたいと思います。

【プロフィール】
モノコトデザイン株式会社 代表取締役
一級建築士  日吉一幸
著書『3000人の家を建てて気づいた本当に「良い家」の建て方』

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